人はミスを犯すもの

航空業界では「人間はミスを犯すもの」という考え方が前提にあります。これは新人だろうが熟練者であろうが人間だからどうしようもないこととして捉えています。どんなに経験があってもスキルが高くても人間だからミスを犯すのです。そう考えるとミスを起こした人だけに原因追求するのは解決策としては十分ではありません。今回は航空業界におけるヒューマンエラーの考え方とその対策についてお伝えします。

目次

ヒューマンエラーの事例

エラーの原因は一つであることはほとんどなく多くの原因が組み合わさって起きています。一つ一つは大したことのない事象がいくつも連鎖した結果、重大なエラーにつながると考えられます。最終的にエラーを起こした本人を責めるケースが多いですが実はそれでは解決しないのです。そのことがわかる事故事例を一つ紹介します。少し長くなりますがお付き合いください。。。

1977年アフリカ大陸の西にあるスペイン領のカナリア諸島の一つテネリフェ島にある小さな空港で起こったジャンボ機同士の衝突事故です。

状況

近くの空港が閉鎖されていたので多くの航空機がテネリフェ島に集まり混雑している状況でした。

衝突した航空機はパンナム機(パンアメリカン航空)とKLM機(オランダ航空)でどちらもB-747というジャンボ機と呼ばれる大型機でした。この2機の目的地も元々はテネリフェ島ではなく、目的地変更でテネリフェ島に着陸していました。

閉鎖されていた本来の目的地の空港が再開したことでその多くの航空機が離陸を開始。

『3番目の出口』とは

パンナム機もKLM機も管制官の指示に従い離陸準備を始めます。先に離陸をすることになるのはKLM機で、KLM機は、離陸地点である滑走路の端で待つよう指示されました。

その後管制官はパンナム機に一旦滑走路に出て『3番目の出口』から誘導路に出て誘導路で待つよう指示を出しました。

しかしパンナム機はC3ではなく、C4に向かいました。

その理由はジャンボ機のような大きな機体がC3のような大きな角度で出口に入り、再び大きく曲がり誘導路に出るような指示は本来であればするものではなく、より入りやすいC4への指示だろうと思ったことと、『3番目の出口』という指示が出たのがC1出口を過ぎていたタイミングだったのでC2から数えて3つ目だと思ったからでした。

濃霧の発生

そんな中濃霧が発生し管制官からは2機の黙示ができない状態になっていました。もともとこの空港には地上レーダーは設置されておらず、特に視程が悪化した場合には無線交信によって飛行機の位置を確認しなければならなかったが、管制官は無線で飛行機の位置を確認していませんでした。

KLM機の機長はブレーキを解除し離陸滑走を始めようとしたが、副操縦士が管制承認が出ていないことを指摘しました。

その後KLM機の副操縦士は管制官に管制承認の確認を行います。

2秒の無言が招いた誤認

管制官はKLM4805便の飛行計画を承認しました。これはあくまで「離陸の準備」であり、「離陸してよい」という承認ではないが、管制官は承認の際に「離陸」という言葉を用いたためKLM側はこれを「離陸してよい」という許可として受け取ったとみられます。

KLM機の副操縦士はオランダ訛りの英語で “We are at take off”(これから離陸する)または “We are taking off”(離陸している)とどちらとも聞こえる回答をしました。

管制塔聞き取れないメッセージに混乱し、KLM機に「OK、(約2秒無言)離陸を待機せよ、あとで呼ぶ」とその場で待機するよう伝えました。

パンナム機はこの両者のやりとりを聞いて即座に不安を感じ「だめだ、こちらはまだ滑走路上をタキシング中だ」と警告しました。

しかし、その警告は届きませんでした。なぜなら、管制官の2秒間の無言状態を「管制官の送信は終わった」と思って発信したため、管制官とパンナム機双方が送信ボタンを押した状態になっていたのです。そのため混信が生じ「離陸を待機せよ、あとで呼ぶ」という重要な指示が送信されませんでした。そして混信にパンナム機も管制官も気づいていませんでした。

そしてKLM機では管制官の「OK」の一言だけが聞き取れました。

威圧的な機長

管制官は改めてパンナム機に対し「滑走路を空けたら報告せよ」と伝え、パンナム機も「OK、滑走路を空けたら報告する」と回答しました。このやりとりはKLM機にも明瞭に聞こえており、これを聴いたKLM機の機関士はパンナム機が滑走路にいるのではないかと機長に伝えました。しかし機長強い口調で「大丈夫さ」と言い放ちました。機長機関士の上司でありKLMで最も経験と権威があるパイロットだったためか、機関士重ねて口を挟むのをためらいました。

そしてKLM機は離陸滑走開始しC4出口に向かっていたパンナム機と衝突してしまいました。ジャンボ機同士の衝突事故は両機の乗員乗客644人のうち583人が死亡した史上最悪の事故となりました。

“Wikipediaより引用”

誰が事故を止められたか

この事例では直接の事故原因はKLM機の機長です。機関士の提言を強い口調ではねのけそのまま離陸滑走してしまっています。しかしこの機長だけを追求してもヒューマンエラーはなくなりません。この事故を回避できたのは機長だけでしょうか?

この事故事例で出てきたのはKLM機の機長KLM機の副操縦士KLM機の機関士パンナム機管制官です。この中で誰が衝突というエラーを止めることができたのでしょうか?一つ一つは大したことのない事象がいくつも連鎖した結果、重大なエラーにつながります。一つひとつ大したことない事象とは何でしょうか?それが事例の説明の中でアンダーラインを引いた部分です。

  • 『3番目の出口』という表現
  • C2から数えて3つ目だと思い込んだ
  • 濃霧が発生し2機の黙示ができない状態になった
  • 無線で飛行機の位置を確認していない
  • 承認の際に「離陸」という言葉を用いた
  • “We are at take off”(これから離陸する)または “We are taking off”(離陸している)とどちらとも聞こえる回答をした
  • 聞き取れないメッセージに混乱し「OK」のあと2秒間無言の時間があった
  • KLM機では管制官の「OK」の一言だけが聞き取れた
  • KLM機の機関士の提言に対し機長強い口調で「大丈夫さ」と言い放った
  • 機関士重ねて口を挟むのをためらった

このような事象が連鎖した結果衝突事故につながっています。これをエラーチェーンと呼びます。どこかで誰かがチェーンを切ればエラーには繋がらなかったのです。このチェーンを切れたのは誰でしょうか?

  • 「3番目の出口」という曖昧な表現をしていなければ・・・
  • C4で良いのか確認していれば・・・
  • 無線の混信に気づいていれば・・・
  • 勇気を持って機長にもう一度提言していれば・・・
  • 濃霧になっていなければ・・・

チェーンを切れたのはここに関わっていた人全員です。大したことない事象に気づいて何らかの対策がとれればこのようなヒューマンエラーは防ぐことができるのです。

このようなヒューマンエラーによる事故が相次ぎ航空業界では「ミスを犯す」という人間の特性に焦点を当てた訓練の開発がされました。そして現在の空の安全は強固なものになりました。

大したことない事象に気づく

エラーにつながる大したことのない事象に気づくためには普段からアンテナをはることと、組織で事象に気づいて対策をとるという環境を作ることが必要です。また、発言しやすい雰囲気作りも大切です。実は大きなエラーの背景には熟練者が関わっているケースも多くあります。最終的に決断する熟練者であるリーダーは普段から発言しやすい雰囲気を作ることを意識し周りの意見を真摯に受け止め判断することが大切です。また部下やチームのメンバーは疑問に思ったことはしっかり確認することをしないといけません。

私も上司だろうが疑問に思ったことは提言してきました。私の考えが至らず提言が間違っていたこともありましたが、上司はしっかり意見を聞き自分の考えを伝えてくれました。それにより私は正く判断するに至るプロセスを学ぶことができました。このようなマインドが社員全員整っていたので提言しやすい雰囲気がありそれぞれが主体的に考える力がついていました。

まとめ

チームビルディング

今回は航空機事故を事例にエラーチェーンについてお伝えしました。この考え方はいろんな場面に活用できると思います。メールの誤送信や発注ミス、値段の記載ミス、不手際によるクレームなど・・・エラーが起こった時にはその人を責めるのではなく、どこかで自分がチェーンを切れなかっただろうか?と考えることが大切です。誰かのミスを自分事として捉える、そして常日頃から「これってエラーにつながりそうだな・・・」と大したことない事象を発見し声に出し対策をとれる環境があれば主体的に行動する人材になっていきます。

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